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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1039号 判決

控訴人 山内義夫

右訴訟代理人弁護士 麓高明

同 深道辰雄

被控訴人 興真乳業株式会社

右代表者代表取締役 古谷章一

右訴訟代理人弁護士 國分昭治

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において「被控訴人が本訴において抹消登記手続を求めている原判決別紙抹消登記目録記載の持分全部移転請求権仮登記及び抵当権設定登記については、浦和地方法務局草加出張所昭和五二年一〇月五日受付第三〇〇一九号及び同出張所前同日受付第三〇〇一八号をもって控訴人から訴外佐藤正雄及び同宮村弘志の両名のため持分二分の一ずつとする権利移転の付記登記がそれぞれ経由されている。」と述べ、被控訴代理人において「控訴人の右主張事実は認める。」と述べたほかは原判決事実摘示と同一である(ただし、原判決二枚目中、表六行目の「までの」の次に「間訴外」を加え、同行目の「興真乳業に対する売掛代金の」を「興信乳業に対して売り渡した牛乳等の売掛代金についての」に改め、裏一一行目の「第八号証」の次に「を提出し」を加え、原判決六枚目(別紙物件目録)裏七行目の「積類」を「種類」に、同裏八行目及び七枚目(前同)表一行目の「平屋建」をそれぞれ「平家建」に改める。)から、これを引用する。

理由

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》を併せると、訴外鈴木英一郎は、原判決別紙物件目録一ないし五記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)についていずれも九分の一の共有持分権を有している以外には見るべき資産を有しないことが認められるところ、本件不動産につき昭和五〇年一二月一一日被控訴人のため原判決別紙抹消登記目録一記載の鈴木英一郎持分全部移転請求権仮登記及び同目録二記載の鈴木英一郎持分の抵当権設定登記がされたこと、右各登記については、その後浦和地方法務局草加出張所昭和五二年一〇月五日受付第三〇〇一九号及び同出張所前同日受付第三〇〇一八号をもって控訴人から訴外佐藤正雄及び同宮村弘志の両名のため持分二分の一ずつとする権利移転の付記登記がそれぞれ経由されていることは当事者間に争いがない。

被控訴人は、債権者代位により訴外鈴木英一郎の共有持分権に基づいて控訴人に対し、本件不動産についてされている鈴木英一郎持分全部移転請求権仮登記及び鈴木英一郎持分の抵当権設定登記の抹消登記手続を求めているので、以下、その理由の有無について審案する。

およそ、付記登記が行われたときは、その登記された事項は主登記と合体して主登記の一部をなすものであるから、本件不動産についてされた前記持分全部移転請求権仮登記及び抵当権設定登記の現在の登記名義人は、控訴人ではなく、訴外佐藤正雄及び同宮村弘志の両名であることは明白であるが、本件のごとく、不動産について所有権(持分)移転請求権仮登記及び抵当権設定登記(以下これらを「主登記」という。)がされた後、右主登記に係る権利につき最初の登記名義人から第三者のため権利移転の付記登記が経由された場合において、当該不動産の所有者が右主登記の登記原因の不存在又は無効を主張して主登記の抹消を求めるには、付記登記を経由した最終の登記名義人を請求の相手方とすべきであって、最初の登記名義人を請求の相手方とすべきものではない。

けだし、当該不動産の所有者がする所有権移転請求権仮登記又は抵当権設定登記の抹消登記手続請求は、これらの登記が存在することにより当該不動産の所有権の円満な状態が妨げられているためその妨害の排除を請求するものと解すべきところ、このような妨害排除請求の相手方とすべき者は、現に妨害行為を行いつつある者でなければならないことはもちろんであり、現に当該不動産の所有権の円満な行使を妨げている主体は、右所有権移転請求権仮登記又は抵当権設定登記のかつての登記名義人ではなく、これらの主登記を現に保有し、支配している最終の登記名義人であって、所有者が最終の登記名義人に対する主登記の抹消登記手続請求訴訟において勝訴すれば、所有者は登記簿上負担のない完全な所有名義を回復することができ、主登記のかつての登記名義人の登記が残存するという事態は生ぜず、所有権の円満な行使に対する妨害状態は完全に除去されるに至るからである。

以上に説示するとおりであって、訴外鈴木英一郎は、本件不動産についてされている鈴木英一郎持分全部移転請求権仮登記及び鈴木英一郎持分の抵当権設定登記の現在の登記名義人でない控訴人に対しては右各登記の抹消登記請求権を有しないものといわざるを得ないので、被控訴人の本訴請求中控訴人に対し右各登記の抹消登記手続を求める部分は、その余の争点について判断するまでもなく失当として排斥を免れないものである。

そうすると、原判決中被控訴人の右抹消登記手続請求を認容した部分は不当であって、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法三八六条により原判決中控訴人敗訴部分を取り消して被控訴人の右請求を棄却することとし、原審及び当審における訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 近藤浩武 林醇)

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